2025.06.30
これまでのコラムでは、ダイヤモンド相場の下落をもたらした主な要因として、第1回で「コロナショック」、第2回で「合成ダイヤモンドの台頭」、第3回で「アメリカの関税政策」を取り上げてきました。
最終回となる今回は、近年のダイヤモンド市場にじわじわと影響を与えている中国経済の失速に焦点を当てます。
そして、実際の価格データを用いながら、過去から現在に至るまでの全体像を読み解いていきます。
中国は、アメリカに次ぐ世界第2位のダイヤモンド消費国です。特に婚約指輪や贈答品需要の大きい都市部では、ブランドジュエリーの人気が根強く、世界の供給と価格形成において無視できない存在となっていました。
また、中国では経済成長とともに「ダイヤモンド=富と成功の象徴」という認識が浸透しており、所得水準の上昇がダイヤ需要を支えてきた背景があります。
しかし、その強い需要が変化しはじめたのが、2019年後半からの中国不動産市場の失速でした。
中国経済の鈍化は、不動産バブルの崩壊と、それに伴う中間層の購買力低下から始まりました。大手デベロッパーの債務問題や住宅価格の下落が相次ぎ、都市部の富裕層ですら支出を控えるようになっています。
こうした経済の冷え込みは、高額商品の購入意欲を直撃しました。とくにジュエリーや時計といったラグジュアリー市場では、2020年代前半から明確に売上減少の兆しが見えはじめ、各ブランドが出店戦略の見直しや在庫整理に追われています。
需要が細ったことで、中国向けの供給にも調整が入るようになり、グローバル相場にも下落圧力を与えています。
以下は、日本国内の業者市場において実際に取引された、0.30ct前後/Gカラー/VS1/Goodカットのダイヤモンド価格推移データ(2017年〜2020年)です。
年月 | カラット | カラー | クラリティ | カット | 金額(円) |
---|---|---|---|---|---|
2017年6月 | 0.305 | G | VS1 | G | 38,000円 |
2017年12月 | 0.306 | G | VS1 | G | 39,000円 |
2018年6月 | 0.309 | G | VS1 | G | 40,000円 |
2019年2月 | 0.303 | G | VS1 | G | 41,000円 |
2019年6月 | 0.301 | G | VS1 | G | 36,000円 |
2019年11月 | 0.302 | G | VS1 | G | 31,000円 |
2020年12月 | 0.300 | G | VS1 | G | 27,000円 |
このように、コロナショック前後を境にして、価格が急激に落ち込んでいるのが分かります。特に2019年後半から2020年末にかけての下落は、中国経済の動揺とパンデミックの影響が重なった時期でもあります。
2017年〜2025年までの価格推移をまとめたグラフを掲載します。
価格が落ち込んだ主なポイントには、以下のような出来事が影響しています:
これらをふまえると、現在の価格は2019年比で3〜4割下落している水準にあり、下げ止まりの兆しは依然として見えにくい状況です。
4回にわたって連載した本コラムでは、コロナ・合成ダイヤ・関税・中国経済という、異なる角度からダイヤモンド価格の変動要因を探ってきました。
そのどれもが、いわば「相場に圧力を与え続ける外的要因」であり、単一ではなく複合的に作用しています。
特に天然ダイヤモンドに関しては、価格以上に「価値の再定義」が迫られているとも言えるでしょう。
希少性や資産性をどう担保し、消費者に訴求していくか。今後の業界全体の動向が注目されます。