2025.06.12
ここ数年、「ダイヤモンドが以前より安くなっている」と感じた方も多いかもしれません。
その背景には、2020年前後の「コロナショック」による需要と供給の崩壊がありました。
そこで本コラムでは、パンデミックがダイヤモンド相場にもたらした影響を、実際の市場価格の推移とともに解説します。
2020年、新型コロナウイルスの感染拡大は、世界経済全体に大きなブレーキをかけました。
当然ながら、ダイヤモンド市場も例外ではなく、需要の激減と流通の停滞という二重の影響を受けることになりました。
まず、結婚式や記念日の延期、海外旅行の中止によってジュエリーを贈る機会が激減しました。さらに、将来の経済に対する不安から高額商品の購入を控える傾向が強まりました。加えて、多くのブランドショップが営業を制限したことも重なり、消費者の動きは大きく鈍りました。
一方で、供給の現場にも深刻な影響が及んでいました。南アフリカやロシアといった主要な産出国では鉱山の操業が一時停止。さらに、インドや中国にある研磨・加工工場も稼働が止まりました。
そのうえ、国際物流の停滞により、原石の流通が世界的に滞りました。このように、需要が急減する中で供給も減ってしまい、結果として市場の動きそのものが停止してしまったのです。
では、実際にどの程度価格が落ち込んだのでしょうか。以下は、日本国内の業者市場で実際に取引された0.30ct前後のダイヤモンド(Gカラー/VS1/Goodカット)の価格推移です。
年月 | カラット数 | カラー | クラリティー | カット | 金額(実績) |
---|---|---|---|---|---|
2019年2月 | 0.303ct | G | VS1 | G | 41,000円 |
2020年12月 | 0.300ct | G | VS1 | G | 24,000円 |
2021年4月 | 0.306ct | G | VS1 | G | 29,000円 |
2022年8月 | 0.304ct | G | VS1 | G | 39,000円 |
その後、2021年中盤以降には各国で経済活動が再開され、ダイヤモンド市場も一時的に回復しました。特にアメリカや中国では婚約指輪の需要が戻り、小売店の売上も復調を見せました。
しかしその回復は長続きせず、2024〜2025年現在では再び相場は下落傾向にあります。背景には、合成ダイヤモンドの急速な普及や、ダイヤモンド製品に対して課された関税といった新たな要因があります。
このように見ていくと、コロナによる価格下落は一時的な現象ではなく、市場の構造変化を促すきっかけとなったと言えるでしょう。
パンデミックは、ダイヤモンド市場にとって想定外の混乱をもたらしました。
そしてその後の数年間にわたり、需要・供給・価格の構造が大きく変化し、現在もその影響が続いています。
次回(第2回)は、この市場変化をさらに押し進めた存在——合成ダイヤモンドについて解説します。